2016 年7月5日、信濃毎日新聞のシリーズ「人間とは、どこから・どこへ」に、感染症の研究から「病原体からものを見る」という副題で、記事が載りました。約2時間のヒヤリングを受けました。NHKのテキストを新聞記者さんが要約してくださったような内容です。
冬のインフルエンザ、夏のデング熱、ジカ熱、いずれもウイルス感染症。人類とウイルスの関係は?敵対か共存か?から始まります。「文明は感染症のゆりかご」というように文明の発達と感染症は深い関係があります。また、人口の爆発的増加が大流行を生むようになりました。そして、人類が出現するずっと以前から細菌やウイルスは存在し、人類が滅んでも細菌やウイルスは生き残るでしょう。
一方、病気の原因となる「病原体」というのは人間から見た名前です。目に見えない微生物がいまも世界を支えており、動物も植物も人もその上にのって生きています。ウイルスはすべての生物種に感染します。感染症は、今も続く地球の生命の歴史・生命体の相互作用なのです。従って、微生物から世界を見ないと感染症は理解できないでしょう。
しかし、人間は微生物を生物兵器として利用しようという発想をも持ちました。共存すべき相手を利用して殺戮を行う方法を考える能力もまた人間の頭脳です。これから、種々の困難に打ち勝って、どのように持続可能な社会を作っていくか?ホモサピエンス(賢い人)の能力が問われる時代です。
2015年、秋の放送、NHKのラジオ講座13回、無事に終わりました。通常、大学では1時間半の講義ですので、30分の講義で完結するには苦労がありました。13回の講義が終わり、今になって言いたいことが伝えられたか少し心配している状況です。
テキストとCDの残りはまだ手元にあります。希望者は、お問い合わせで連絡ください。
テキストの「はじめに」の部分です
明治の中頃、人の伝染病は「人から人にうつる伝染病」と定義され、医学部で教えていました。同じころ、家畜伝染病は「家畜から家畜にうつる伝染病」として、獣医学の対象でした。百年以上、動物から人に感染する病気は無視されてきました。しかし、最近の新興感染症の大多数は動物に由来する感染症です。
感染症の原因は病原微生物です。微生物は目に見えない生命体です。17世紀に顕微鏡が開発されるまで、その存在は不明でした。微生物が病気の原因であることが確認されたのは19世紀の後半です。病原微生物は、細菌、ウイルス、原虫、真菌などです。いずれも地球上の生命史40億年のうち、30億年以上にわたって地球の生命体の主役でした。約5億年前に高等生物が登場し、やがて魚類から鳥類、哺乳類と進んできました。
感染症は、地球の初期に出現した原始生命体群と最後に出現した家畜や人(宿主)との相互作用で、途中には様々な生命体同士の相互作用(共生、寄生、感染)があります。本講義では病気の側面だけでなく、生物の多様性と進化、相互の関係からみてみましょう。
また、恐怖を引き起こす感染症といえば、血反吐を吐き、全身血管から出血する感染症が思い浮かびますが、本当に怖い感染症は宿主が反応する前に、無抵抗のまま殺し、伝播していきます。激しい症状の見た目に明らかな感染症の方が統御しやすい側面を持っています。こうした感染症の特徴等についても紹介したいと思います。
テキストとは別に、青山の講義に使うスライド、第1回から13回までのものです。
テキストを読むときのイメージに利用してください。
第1回4千年の歴史を持つ狂犬病ウイルスと第2回歴史を変えたペスト菌のスライドです
第1回「生物進化の謎と感染症」という講義を始めるにあたり、何故、第1回が狂犬病なのですか?という疑問をもたれる方もいられるでしょう。後の講義で述べるように人の感染症の起源は動物に由来する感染症ですし、昆虫や寄生虫のような生物にも感染症はあります。地球上に細菌という原始的な生命体が出現してからずっと、生物の間で感染症はありました。しかし、いきなり、昆虫や寄生虫の感染症の話をしても理解できないでしょうから、記録に残っているヒトのもっとも古いウイルス感染症の例から講義を始めたいと思います。
狂犬病は歴史的にみて非常に古い「動物と人の感染症」です。既に紀元前1930年頃のエシュヌンナ法典に「狂犬が人を咬んで死亡させた時、その飼い主が対価を支払う義務」について書かれています。また、1885年、ウイルスという病原微生物が理解される以前に、ルイ・パスツールによってワクチン作成の試みがなされたことでも有名です。しかし、重要なことは、この感染症が依然として現在でも世界中に広く蔓延していること、ヒトが感染して発症した場合には有効な治療法がなく、ほぼ100%死亡すること、ヒトと動物に対して有効なワクチンが開発されているにも拘わらず撲滅できないことです。何故でしょうか?ここから講義を始めたいと思います。
第2回 ペストは、狂犬病のようにウイルスで起こる感染症ではありません。ペスト菌という細菌の感染によって起こる致命的な感染症です。ペストは齧歯類から蚤を介して感染します。ツキジデスによるペロポネソス戦争の記録にアテネでのペストの流行と思われる記述があります。また、中世の市民を恐怖のどん底に陥れた「黒死病」としても有名です。中世のペストの悲惨な様子は、ボッカチオの「デカメロン(十日物語)」やカミュの「ペスト」に書かれています。
ペストの流行の歴史を振り返ると、大流行は世界史上3回知られています。6世紀ユスティニアヌス帝の時に中近東、欧州、アジアに広がった古典型、14世紀の中世の大流行を起こした地中海型と、19世紀以降の世界貿易の拡大に伴いネズミと共に世界中に蔓延した東洋型です。しかし、現在でもアフリカ、アジア、アメリカ大陸には汚染地帯が存在し、野生の齧歯類と蚤の間でペスト菌が循環しています。1980年~1994 年の15 年間に世界保健機関(WHO)に報告されたペスト患者は、24 カ国で18,739 人、死亡者は1,852 人です。世界では、毎年のように地域的な流行を起こしています。決して歴史に埋もれた過去の感染症ではありません。
例えばインターネットでみれば以下のような記事が見られます。「マダガスカル保健省は、同国におけるペストの流行により、2013年9月以降319名が感染、75名が死亡していることを公表しました。またWHOの統計によれば、2012年のマダガスカルのペスト感染者は256名で、60名が死亡しています」。「米国では2006年ヒトのペスト症例が4州から計13例報告されています。ニューメキシコ州7例、コロラド州3例、カリフォルニア州2例と、テキサス州1例で、このうち死亡例は2例です」。
狂犬病のウイルスはなぜラブドウイルス科のリッサウイルス属のレィビィスウイルスといわれるのでしょうか? ラブドというのは電子顕微鏡で見た時に狂犬病ウイルスの属するウイルス群の形が棒状(ギリシャ語のラブド:棒)であるためです。リッサウイルス属の名の由来は神話の世界です。リッサは狂気の女神で、偶然に猟師アクタイオンがアルテミスの水浴を見たためシカに変えられ気の狂った猟犬に食べられるというストーリーに登場します。猟犬を狂わせた女神がリッサです。狂気の女神リッサはアルテミス(月の女神で狩の女神で処女神です。別名はダイアナ、ルナ)の要請で猟犬を狂わせたました。アルテミスはフォンテンブロー派、フェルメール、コレッジオ、ルノワールなどが描いています。またこの神話はプーシェ、ティツィアーノ、チェザリが絵に残しています。レィビィスはサンスクリット語の凶暴な(ラーバース)に由来しています。それぞれ名前には意味があるわけです。
古代エシュヌンナ法典には以下の記述が残っています。
①もし犬が狂っており、
②その所有者が犬を拘束しておかないで、
③犬が人を噛み、死なせてしまった場合。権威者が犬の所有者にその事実を伝えたとき、
犬の所有者は、
④銀40 シケル(shekels) を支払う、
⑤被害者が奴隷の場合、銀15 shekels を支払わなければならない。
(1 shekel は銀1/3オンス、あるいは3ペニーの銀重量に相当)
それぞれ28.3 g/3=9.4gあるいは453g/240 x3=5.7gです。
第3回生命の進化と感染症、4回ヒトの感染症の起源のイントロとスライドです。
第3回第1回は、四千年以上も人類が付き合ってきたウイルス感染症の例として狂犬病の講義をしました。また、第2回は、爆発的流行により世界史に影響を与えた細菌感染症であるペストを取り上げました。病原体の種類は、それぞれウイルスと細菌というように違っています。狂犬病は主に発症した食肉類の動物の咬傷により、ペストは病原体を保有する蚤に刺されることで起こります。もちろん、肺ペストの場合には、肺で増殖したペスト菌を含む痰や飛沫などでヒトからヒトに伝播します。
一般に、感染症は病原性のある微生物が、いろいろな経路でヒトや動物に接触することから始まります。これを微生物による「暴露」といいます。宿主が病原体に暴露された結果、病原微生物がヒトや動物の体に侵入し、定着・増殖することを「感染」といいます。しかし、病原体に暴露されたからといっても、必ず感染するとは限りません。病原体の感染により、組織・臓器の破壊や病原体の産生する毒素等により、宿主が病気になることを「感染症」に罹る(発症する)といいます。
感染したからといって、必ずしも発症するとも限りません。感染しても発症しない場合は「不顕性感染」といいます。症状が出ないので感染したという実感はありませんが、異物である病原体が体内で増えるので、免疫反応が起き、感染する前と後では抗体価(ウイルスや細菌が細胞などに感染するのを防止する抗体の力価、抗体を希釈していって、どこまで阻止する力があるかを測ります)が上昇するので感染したことがわかります。今回は、そもそも感染症の原因となる微生物とは何かを考えてみましょう。
第4回約6,500万~7,000万年前、霊長類は他の哺乳類と分かれました。その後、原猿類と真猿類が分かれ、約4,000万年前に真猿類が新世界ザルと旧世界ザルに分かれました。霊長類は、夜行性の哺乳類から分かれ昼行性となり、樹上生活で「器用な手と両眼立体視の目と、進んだ運動・感覚連合野の脳」を発達させました。約1,000万年前に類人猿のテナガザルが分かれ、ヒト上科ではオラウータンが800万年前に分岐し、650万年前にゴリラが分かれました。ヒトとチンパンジーが共通の祖先から分かれたのが約500万年前と考えられています(700万年前という説もあります)。人類はその後、猿人、原人、旧人、新人と進化しました。現生人類の直接の祖先は約6万年前にアフリカ大陸を出て、それまでの人類を凌駕し全世界に適応定着しました。
第5回ヒトと動物の共通感染症とは?第6回ネズミに由来する感染症のイントロとスライドです。
第5回人獣共通感染症は「人と動物の共通感染症」あるいは「動物由来感染症」、「人畜共通伝染病」、「ズーノーシス(Zoonosis)」などと、いろいろな名称で呼ばれます。しかし、中身は全く同じです。厚生労働省は人の立場から「動物由来感染症」といいます。獣医師会は人と動物に配慮して「人と動物の共通感染症あるいは単に共通感染症」といいます。農林水産省は伝統的に「人畜共通伝染病」といい、学問的には「人獣共通感染症」と呼ばれています。
伝染病予防法を改め感染症法を制定して以来、厚生労働省は感染症という言葉を用いますが、病原体の感染によって起こる病気が感染症(infectious disease)という広い意味を持つのに対し、伝染病(contagious disease)は感染症の中でも伝搬力が強く、容易に大流行を起こしやすいものをいいます。伝染病予防法が人から人に感染する流行病の対策を示した法律であったのに対し、感染症法は動物からヒトに感染する病気も含むこと、予防を主とし、伝染病であれ伝染性の強くない感染症であれ、患者さんの人権や保護に配慮する対策には変わりないという法の精神が感染症という言葉にこめられていると思います。感染症法の正式名称は「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」です。
第6回一般にネズミというと家の周りにいるドブネズミやクマネズミ、あるいはハツカネズミを思い浮かべるのではなかと思います。時には、野外でハタネズミに出会った方もいるでしょう。ネズミが属する齧歯類は、約7,000万年前に哺乳類が分岐した時の原型といわれる長い歴史を持つ動物です。そのため、古くから種々の微生物と接触し、多くの病原体を保有しています。陸上で生活している哺乳類は、現在、約4000種います。その中で最も種の数が多く、約400属2000種、陸生哺乳類の半分の動物種が齧歯類で、極地を除く世界中に分布しています。
齧歯類で最も大きな動物は成熟個体の体重が30~60kgのカピバラです。最小は5gのトビネズミです。大きさが1万倍も違います。ほとんどの種は比較的小型で、1年間に何度も出産をするものもあり、多くは多産で、繁殖力が高いという特徴を持っています。生息域は多様です。水生、陸生、あるいは地下の巣穴にすむなど、さまざまな環境に適応しています。リスのように樹上に生息する種もあり、約35種はムササビやモモンガの仲間で木から木へ滑空することができます。
齧歯類の多くが害獣です。農作物や貯蔵食物に害をあたえるほか、ドブネズミ、クマネズミなどは、ノミ、ダニなどの外部寄生虫とともに、ヒトへ感染病原体を伝播します。他方、マウスやラットは実験動物として医学や薬学の実験に利用されますし、ハムスターやモルモットは、実験動物だけでなく最近はペット動物としても高い人気を誇っています。
第7回翼手目由来感染症および第8回ウイルスの進化と多様性のスライドです。
第7回最近、世界中を驚かせた新興感染症で自然宿主が明らかになった例を振り返ってみると、その多くがコウモリであることがわかります。コウモリが原因なのに、例えばウマから感染するヘンドラウイルス感染症、ブタから感染するニパウイルス感染症、ヨーロッパとオーストラリアのコウモリリッサウイルス感染症、サル類から感染したマールブルグ病やエボラ出血熱、さらにハクビシンから感染したといわれている重症急性呼吸器症候群(SARS)、あるいはラクダとともに宿主と疑われている中東呼吸器症候群(MERS)などがあります。何故コウモリがこのような役割を果たすことになったのでしょうか?そもそもコウモリとはどのような特徴を持った動物でしょうか?ここから、今回の講義を始めます。
第8回第6回は齧歯類由来の感染症、第7回は翼手目由来の感染症を紹介しました。各動物グループの生物学的・生態学的な特徴や、その中で病原体がどのように振る舞い、他の動物などを介して、どのようにヒトに感染するのか理解できたでしょうか?
講義もちょうど半ばにきました。700近くの動物由来感染症を全て説明することは不可能です。最初は、このままサル類、鳥類、家畜、伴侶動物に由来する感染症について、病原体、自然宿主、動物、ヒトの関係を解説していく予定でした。しかし、病気の名前ばかりでは退屈してしまうのではないかと考えました。そこで、感染症をより深く理解していただくために、これから2回にわたってウイルスの戦略と多様性、宿主の防衛手段の進化という、攻める側と守る側の両方から感染症を考えてみることにしましょう。
第9回講義生体防御系の進化と10回講義食品由来感染症のスライドです。
第9回生物進化の中で、ゲノムと神経と生体防御系は、いずれも古いシステムの上に新しいシステムを追加して出来上がっています。新しい体制ができたからと言って古い体制を消し去ってはいません。ヒトのゲノムのほとんどは、ジャンクDNA(ガラクタDNAといわれる古い遺伝子断片)で出来ています。脳はワニの脳に、鳥の脳、ウマの脳を積み上げてヒトの脳ができたといわれるように、脳幹部、旧皮質、新皮質と重層化して発達してきました。免疫系も物理的なバリアーから、もって生まれた先天性な免疫機能である自然免疫、および獲得免疫、すなわち異物や抗原に出会って誘導される後天的な特異免疫と積み上げてきています。
それだけでなく、ヒトの生体防御反応は感染病原体に対して、古い時代に獲得した反応から順に発現させていきます。あたかも個体発生が系統発生を繰り返すように、個体の防御反応は系統的に手に入れた反応を繰り返します。バリアーが突破されると自然免疫系が活動します。自然免疫での対応が困難になると獲得免疫が動き出すのです。今回は、宿主の生体防御機構の進化について講義します。
第10回動物由来感染症というと野生動物に触れる、咬まれる、動物の血を吸った蚊やダニに刺されるといった場面を思い浮かべると思います。しかし、第5回で紹介したテイラーらの報告では、病原体の感染経路としては食品由来が意外と多く、土壌(土壌細菌や真菌による感染)、接触(感染したヒトや動物との接触、咬まれる、なめられる、引っ掻かれるなど)についで第3位です。特に新興感染症の病原体の感染経路としては食品由来が一番多くなっています。
最近話題になったBSEと変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)、腸管出血性大腸菌症(O-157)、ノロウイルス感染症、E型肝炎、キャンピロバクター症、サルモネラ症などは、汚染された畜水産品を食べることで起こる感染症です。また、厚生労働省が問題とした原因不明の食中毒(ヒラメ刺身、馬刺し)についても、その原因が寄生虫であることが明らかにされました。今回は、食品にかかわる動物由来感染症について紹介します。
第11回ペット動物由来感染症と第12回感染症統御の国際対応の資料です。
第11回世界を震撼させた野生動物由来の感染症を紹介するため、齧歯類(第6回)や翼手目(第7回)が自然宿主となる、ヒトに致命的な感染症のアウトブレイク(大流行)から始めました。最初は、順次、霊長類、鳥類由来感染症などを紹介する予定でしたが、病気の名前ばかりが登場するので中断しました。感染症の考え方を整理するために、攻める側の病原体の戦略(ウイルスの多様性と進化:第8回)、守る側の生体防御系の進化(第9回)を紹介しました。地球の生命史の中では、新しい高等生物が現れるたびに、それまでの宿主が寄生体になり、生命体同士の相互作用(共生、寄生、感染)は複雑化していきました。例えば細菌という宿主に感染するウイルス(バクテリオファージ)、原虫という宿主に感染する細菌(アメーバに感染するレジオネラ菌)、寄生虫という宿主に感染する原虫(鶏盲腸虫に感染するヒストモナス原虫)、高等動物に感染する寄生虫といった具合です。同時に、宿主として、順次、新しい生体防御システムを積み上げてきました。
第10回は感染経路の切り口を変えて、畜水産品など食品由来感染症を紹介しました。今回は、最も身近にいる動物、ペット動物に由来する感染症を紹介します。第3回で地球上の生命史から見た病原体の講義をしました。その時の生命体の出現順序に従い、ペット動物由来の感染症を細菌(祖先は40億年前から存在)、ウイルス(推定30億年前から)、原虫(20億年前から)、真菌(一部20億年前、他は10億年前から)、寄生虫(10億年前から)という順で講義してみます。
第12回これまで様々な側面から感染症を見てきました。しかし、専門外の方と話していると病原体や微生物に対するイメージだけでなく、感染症の怖さや流行の特徴も、一般の人と専門家との間にはかなりの違いがあることがわかりました。今回は、感染症の見方について、感染力と病原性、病原性と症状、傷害を受ける臓器と致死率、感染症の伝播と蔓延、感染症の統御に関する自然科学と社会科学など、様々な点から感染症を整理してみました。また、新興・再興感染症について国際機関がどのように取り組むか、その基本戦略である「世界は一つ、健康は一つ」の原則を紹介します。
第13回、最終回の講義です。タイトルは感染症の国内対応です。ここまで読んでいただき
ありがとうございました。
第13回今回は日本の感染症への対応を取り上げました。明治30年(1897年)に施行された伝染病予防法は、コレラ、ジフテリア、猩紅熱、赤痢、腸チフス、痘瘡、発疹チフス、パラチフス、ペスト、流行性脳脊髄膜炎の10種の急性伝染病が対象でした。
1999年に施行された感染症法では、現在、約110種類の感染症が1類から5類に類型化されています。また隔離よりも人権に配慮し、予防医療を重視した体制になっています。人獣共通感染症(感染症法では動物由来感染症)や病原体取扱い(バイオテロ対応)も感染症法に組み込まれているので、これらも紹介します。なお今回の講義は、感染症法がメインになるので、厚生労働省の定義に従い人獣共感染症は動物由来感染症とします。